2017年7月1日土曜日

HyperLightDrifterでピクセルアートを旅した



 どうも。4月の入社から無事に3ヶ月が経ちましたが、どうにかこうにか生き延びています。週休3日とか4日とか欲しい……

 さてPCゲームを遊ぶ人なら誰もがご存知の事でしょうが、記事執筆時(7/1)、今年のSteamサマーセールが開催中です。
 私も会期の初め頃に気になっていたゲームを数本買い、追加でもう数本くらい買ってみようかしらというようなことを考えているところ。
 とりあえず今回は購入した中の一本、「Hyper Light Drifter」を紹介します。



 とにかく黙って上の動画を見たりサントラを聞いてくれ……アートなり戦闘なり音楽なりがピンときた人はこんな記事読んでないで買って体験してくれ……という感じのゲームではありますが、とにかく感想を書いていきましょう。

 ゲームとしては2Dゼルダライク(?)な見下ろし型の探索アクションゲームで、道中であっても甘えと油断が許されないハードコアな戦闘と、豊富な隠し部屋やギミックが存在する探索を特色とした、中々ストイックな感じのアクションゲーム。

 しかし記事冒頭に貼り付けたスクリーンショットを見て分かる通り、アクションゲームとしてのこだわりだけでなく、設定面やアート的な部分についても非常に力が入った内容になっています。
 高解像度でキッチリ描き込まれたドット絵のグラフィックによって表現される魅力的な情景、アンビエントで深みのあるBGM、文章や台詞による説明は(ほぼ)登場せず、絵のみで語るストーリー演出など、いわゆる「雰囲気ゲー」としての側面もかなり強く持っており、むしろそここそが本作の強烈な魅力になっています。




ゲームプレイ

まずゲームとしての感触、遊び心地的な部分ですが、一通り通常難易度で1周した限りでは、かなり厳し目の難易度設定になっていたと感じました。

戦闘

まず根本的に、プレイヤーは敵の攻撃を数発喰らえば普通に死亡する体力設定で、体力を増加させるアイテムハートのかけら/うつわ的なアイテムは特になし。しかもプレイヤー側のダメージ後無敵時間は短く、ボス戦などでは一発喰らってふっ飛ばされてから2撃目を回避できずそのまま即死というパターンに陥ることもしばしば。
 一応回復アイテムをストックして持ち歩くことは可能ですが、この回復時に割と大きい隙ができる(モンハンのあのポーズほどではないにせよ)ため、下手なタイミングに使えば回復直後の被弾で回復分が帳消しになるような事になってしまいます。

 この辺りの仕様から、戦闘においてプレイヤーは「自分の意図した通りに攻撃・回避を行える」「敵の攻撃パターンを看破している」「事故でない限り原則敵の攻撃に当たらない」というのがかなり前提となっている節があり、初見のタイミングでは操作も不慣れだし敵の攻撃パターンも分からんし一発食らってから再起のチャンスもないしという感じで割とガンガン死にまくります。




 主人公の行える攻撃は、剣による近接攻撃、剣で敵を切らないと弾数が回復しない銃による攻撃、強力だがリチャージに時間のかかるボムの3種類。
 そして特徴的なエフェクトが格好いいダッシュが攻防の両面の主体となり、これらをうまく使い分けてヒットアンドアウェイで戦っていくのが戦闘の骨子。
 ダッシュ中に剣を振るとダッシュ斬撃になったり、基本攻撃の連撃中に射撃やダッシュ斬撃に繋いだり、というような派生はありますが、そこまで複雑なコンボパターンやコマンド入力が存在するわけではありません。

 各行動の隙は中々大きめで、敵も攻撃を食らってもノックバックせずに殴りかかってきたりするため、調子に乗って連撃をしようとすると普通に殴り返されるのがしばしば。
 またダッシュは強力ではあるもののオーバーランしたり自分から当たりに行ってしまったりというようなコントロールが難しく、ダッシュの絡むダッシュ切りや連続ダッシュなどの特殊行動は全体的に入力タイミングがやたらと厳しいです。

 ザコ敵はそれぞれ割とシンプルな行動パターンを持っており、それを理解すれば殆どはノーダメージで処理することができますが、複数組み合わせで登場したり、複数方向からの同時攻撃を仕掛けてきたり、回避するスペースがあまり無いようなロケーションで出てきたりという事もあり、そういうときには優先順位をつけて対応したりうまくおびき出してみたりと言うような戦略が必要になるわけですが、これがなかなか難しい。

 単純なところでは遠距離で弾撃ってくる敵と接近してくる敵の同時沸きみたいなところから、扇状way弾を撃ってくる敵が複数同時に出てきた上に微妙にずらして射撃して来たり、3種類4種類という敵が同時に出てきてもう何がきてるのかよく分からねえというレベルになってみたり、ちょっと強引な物量で難易度を上げてくるようなシーンが所々見られます。

 ボスはそれぞれ固有で多様な行動パターンを持っており、どれもかなり厄介ではありますが、繰り返し挑戦しているうちに段々パターンが見えてくるところはあり、強敵ではあるものの、パターンさえ理解できればどうにかならなくもないという塩梅に調整されております。
 ただ一部のボスは射撃攻撃があまりにも無体なので、射撃攻撃を剣で跳ね返すスキルやダッシュで吸収するスキルを早めに取っておかないと難易度ぜんぜん違うなというところはありますが……


とは言え、あまりにも理不尽な戦闘というのはそこまで多くはなく、死亡後のリトライもスムーズで、リトライの戻され具合もまぁ納得できる程度。難所の割に異様に戻されるところもありますが、まぁ許容範囲のレベルではありました。

 また逆に、うまく敵の集団を捌けたり、厳しい攻撃をスタイリッシュに回避して反撃に移れたりした時の喜びもひとしお。

 難所のようなポイントでも、敵の近接集団の攻撃を誘発させ、その隙を突いてダッシュで接近しつつダッシュ攻撃で吹き飛ばし、そのまま纏めて射撃で撃破、離れた位置から射撃してくる敵の攻撃を躱しつつ、大型敵にコンボをキメて撃破、素早く銃を持ち替えて遠距離の敵を撃破し、最後に増援としてやって来るザコの集団を出現地点で各個撃破、という具合にうまく戦闘ができると非常に気持ちよくなることができます。この戦闘のシビアながらそれ故の面白みがあるプレイ感はぜひ実際に触ってみてもらいたいところ。

 慣れてきた後に序盤探索したエリアを再訪してみると自分の成長も実感できますし、習熟の余地と喜びがしっかりと存在するタイプのゲーム。
 死亡時の納得感もありますし、アクション耐性と適正があれば、プレイしている間に慣れでなんとかなるレベルではあると思います。

探索



 最初にも書きましたが、このゲームは探索要素にも力が入っています。大まかに4つに分けられたワールドマップはそれぞれそれなりの広さがあり、普通にクリアする範囲でもマップ全体は一通り見て回る感じになりますし、各エリアには地上と地下が存在しており、割と入り組んだ構造になっています。
 地上では道がつながっておらず通れない所は地下を経由する必要があったり、別の地下入り口から共通したルートに繋がっていたりというような複雑さがあり、マップがちょっと不便な仕様なのも合わさって、そこそこ苦労させられる部分もありました。

 本ゲームにおいて各エリアのボスに挑戦するためには、各所のマップ内に設置されているチェックポイント的な地点を発見、これをアクティベートしていく必要があるため、寄り道せずに一直線にボス戦だとかそういう感じのゲームではなく、探索自体が明らかにゲームのメイン要素として組み込まれています。

 そして探索対象のエリアには恐ろしい数の隠し部屋や通路が用意されています。
 隠し要素の多くは謎解きによって開放されるというようなものではなく、純粋に隠されているだけのものが大半。いかにマップを良く見て不自然な点に気づけるかという注意力が試されます。

 殆どの隠し通路の近くには目を引くようなマークや目印などが存在し、全体的には結構巧みな視線誘導が行われていたり、隠し要素のパターンを理解できるようになっていたりして、遊んでいるうちに段々「あっこの辺なんかありそうだな」という感触は持てるようになってきますが、それでも所々流石に厳しいのではというようなところもあって、気づけない所は中々気づけない。
 一応、隠し要素のコンプリートなどはしなくてもゲームのクリアは可能となっており、ただクリアするだけであれば常識的に気付ける範囲を見て回るだけでおそらく何とかなるとは思います。

 しかし、「隠し通路の先に落ちている"ことがある"カギアイテムを一定数集めないと開かない扉」とか「特定エリアのクリア後でないと開かない部屋」「特定アイテムが無いと突破不能な仕掛け」みたいな所はチラホラあり、この辺は正直、必要条件の達成前に発見した場合、そういうのがあったことを覚えていられなかったり、覚えていたとしても戻るのが面倒くさかったりなのでちょっとあまり個人的には好みではない要素。




 まぁこのゲームの隠し要素コンプリートのハードルは恐ろしく高い(注意力だけでなく、かなりのプレイング技術も要求される仕掛けの用意されたシークレットも幾つかあるらしい)ようなので、コンプを目指すつもりも元々ないのですが、だからと言ってあからさまに見えてる怪しいポイントを一旦見過ごさなければいけない、というのはちょっとストレスが溜まります。

 このあたりゼルダリスペクト/メトロイドヴァニア系みたいなゲームでは定番の要素ではあるので、自分の好みでないだけでこれが好きだという人が居るのだろうとは思いますが。せめてどこに鍵要求扉があったのかとかを表示してくれたらなぁ……

 あと即死トラップと真っ暗で視界狭いマップは許さん。即死トラップいっぱいところは大体なぜかリトライポイントが遥か後ろなのも許さん。

アート/演出/ストーリー

さて最初の方で述べた通りこのゲームは「雰囲気ゲー」的なところが大いにあるのですが、アート、音楽、設定や演出、全体的に非常に私好みで素晴らしい内容でありました。

 特に本作全体を通じて堪能することが出来るドット絵グラフィックの美しさは何よりも強調したいポイントです。
 本作のドット絵は、ドット絵全盛時代のゲームのような、「ハード側の都合によって、ドット絵以外の選択肢が殆どなかったがゆえ、必然的にそうなった/ならざるを得なかったドット絵」とは背景も意味合いも内容も根底から異なりますし、
 あるいは近頃流行している「レトロな雰囲気を出すためにあえて選択されたアートスタイルとしてのドット絵」や、その中でも特に「当時の色数制限や画像サイズなどをあえて課した(あるいは知らずにぶっちぎってツッコミを受けているようなのもあるが)8bit/16bit調のドット絵」とも全く方向性が違っています。

 色数も豊かで解像度も高く、現代的なグラデーションなども併用することで、かつての色数やスプライト数などの制限から解き放たれた、「アート表現の一種として、この方式が最善と考えて選択されたドット絵」とでも言うべきグラフィックスタイルはまさに「ピクセルアート」という表現がしっくり来るもの。終末系というかポストアポカリプス的というか、有り体に言ってしまえばジブリっぽい世界観を美麗に表現しています。

 これは仮に3Dのゲームであれば絶対に同じ印象の作品を生み出すことはできなかっただろうなと感じる所で、キャラクターや風景のデフォルメ、抽象感、色のコントラストや遠景近景の描き分けなど、ドットの映像であるがゆえに与えられる感触や、プレイヤーの側がその情景から想像して補間する余地のようなものが生まれているのだろうかという印象。

 どこへ行っても印象的な光景が現れ、その中を自分がキャラクターを操作して動かしているという感覚は唯一無二のもので、アートの世界の中を歩き旅している、という表現がまさにふさわしいもの。この感覚を味わえるというだけでもこのゲームを買って遊んだ価値があったというものです。



 またステージ設計の部分も非常に巧みで、マップ内を探索していると、所々に非常に美しいロケーションや惨劇の痕跡、謎めいたロケーションなど、印象的な光景が用意されています。そしてそれらの背景や状況、設定などが説明されることは一切と言っていいほどありません。
 この場所はどうしてこのような状態になったのか、これの原因となる出来事が起きてからどれほどの時間が経ったのか、そもそも目の前に存在するこれは何なのか。それらの要素は殆ど、プレイヤーの側が推測、と言うより妄想するより他にありません。

 こうしたロケーションが設置されているポイントがしばしば戦闘の発生しない場所/高難易度のポイントやボス戦の後などに配置されているのがニクいところで、ゲームの緩急に貢献しつつ、厳しい戦闘の息抜きや、もっと先を見たいというモチベーションに繋がってくれます。


ゲームの大まかな設定としては、かつて様々な種族が繁栄し超科学の文明を築いていたが、それが何らかの理由によって大崩壊を起こし、遥かな時が過ぎた後の時代。何らかの病に冒された主人公は、自らの病を治療する方法を発見するため、謎の犬のような存在に導かれ、崩壊した世界を旅する……というような設定のように思えますし、実際各所にもこれに準ずる説明が書かれていますが、これでさえも本当に額面通り受け取って良いのかよく分からない次第。

 オープニングムービーやトレーラーにおける演出、作中に度々現れる幻影のような存在の演出など意味深な場面も多くあり、主人公は一体何者なのか、旅の目的は本当に病の治療なのか、敵の正体は何なのか、あの犬は何なのか……そういった疑問を持つような設計になっていますし、それに対して明確な答えが作中で出されることは一切ありません。



 実のところ作中の隠しメッセージなどを色々と読み解けばストーリーの概略や世界観の概略的なものは知ることが出来るようになっているようですが、海外wikiなど調べて読んだ感想としては「これだけの話であるとしたら色々な要素の説明がつかなすぎる……」という感じで、おそらくそれも制作側の意図したものであろうと思います。

 繰り返されるリフレインやオープニングムービー、各所の進行に合わせて起きる演出からは、主人公の目的は病の治癒というよりは何らかの回顧や贖罪のようなものなのではないかという印象を私は受けましたし、主人公の病も肉体的なものではないのではないか、いやそもそも病というのが主人公の過去に存在する何らかの罪の暗喩のようなもので……というようにも考えています。このあたりも含めて、自分で体験して考えたことが全てだ、ということなのでしょうが。

 ともあれ、この演出スタンスは好みが分かれそうなものですが、少なくとも私としては大好物で、遊んでいる間は妄想たくましくどっぷりと世界観に浸る事ができました。
 アート関連・世界観関連についてはもう褒めるところしかないとさえ思いますが、残念な点があったとすれば、左エリアのアートの色合いがちょっと好みでなく、探索中微妙に気分が滅入るような感じになっていた事。まぁそれも上エリアと右エリアがあまりにも素晴らしかったのでOKですという感じ。

総合して

ストイックで奥が深い戦闘、充実しているがちょっと不親切な感も強い探索、そして何より素晴らしいアートと世界観。
 戦闘や探索の難易度にせよ、設定や演出のノリにせよ、多かれ少なかれ人を選ぶような内容となっており、如何にも尖った、インディーゲームらしさのあるインディーゲーム、と言えるような感じもします。

 このゲームを遊んでいて感じるこの感覚は何だろうなとプレイしている間中考えていましたが、ふと「開発者のプレイヤーに対する信頼」そして同時に「開発者の自分のゲームに対する自信」というものを凄く感じるんだな、と気づきました。

 ストイックな戦闘難易度にせよ、ヒントの際どい探索要素にせよ、あまりにも語らないストーリーや背景にせよ、
 「プレイヤーならこの戦闘を突破するはずだ」「突破しようと思わせるだけのゲームを作ったはずだ」
 「プレイヤーならこのヒントに気づいて隠し通路を見つけるはずだ」「探したいと思えるゲームを作ったはずだ」
 「プレイヤーならこの演出から何かを感じ取ったはずだ」「何かを感じられるだけのものを作り上げたはずだ」

 ……このゲームからはそういった信頼と自信が感じ取れるように思えました。まぁ思い込みとかプレイヤー側の自惚れとか言われれば全く反論の余地は無いのですが、少なくとも自分はそう感じたということです。
 
 そして逆にプレイヤーの側からしても、「ここまでの傾向から言ってこのゲームならここに隠し通路を置いているはずだ」というような信頼を持てるようになっていったところがありました。
 無論その信頼関係が常に成立しているわけではなく、時に「こんな思わせぶりな雰囲気なのに何もねえのかよ!(ダッシュして崖下に落ちながら)」とか「こんなのノーヒントと大して変わらんだろ……」というような印象を持つところもありました。信頼が裏返ったというか何というか……

 なにはともあれ、様々な面で尖った内容のゲームで、小粒ながら強いインパクトを残してくれました。大傑作と呼ぶには色々と荒削りな部分や足りない部分も少なくない作品ではありますが、ピクセルアートの美しさ、世界観の演出、という点に限って言えばこれまで見た中でも上位の出来。
 アクションが好きか、アートスタイルが気に入ったかしたならば、とりあえず触っておいて損はないように思います。