2022年6月4日土曜日

トップガン マーヴェリックを見てきた

 タイトル通りの話です。とにかく感想としてはめちゃくちゃいい映画だったんだけど、Twitter上で一言二言言って済ますにはあまりにも良いものだったのでとにかく初見時の印象を書き残しておかねばという使命感が。

 なお以下言うまでもなくネタバレだらけなので、見てない人は早いとこ見に行ったほうが良いですよという感じでよろしくお願いします。





 



 まず初っ端から前作のあの有名なOPをそのまま現代の撮影技術で高解像度にマニアックなカメラアングルでリメイクしたような入りでめちゃくちゃ熱かったしなんならちょっと泣きそうになったんですが、その上あのニンジャまでそのまま出したりしてくるのは初っ端からサービス精神旺盛すぎるだろうみたいな気持ちに。

 P-51も本人所有の機体だとかいう話も見かけた上で見に行っていたので、なんかもうこれマーヴェリックというかただのトム・クルーズ本人じゃねえかみたいな感もあって、なんにせよ初っ端からこの男格好良すぎるなと思っていたら映画の終わりまでトムが格好良いシーンしかなかったし、終始一切わざとらしさがなくて芯から格好良かったのがすごかったなと。名優の名優たる所以と言うか。


 最初から発艦シーンでF-35が出てきたり、かと思えば旧式ニンジャが出てきたりと、作品全体として「旧世代と現世代」というテーマを語る上で、「世代」の象徴として色々なメカが効果的に使われていたのにはオタク心をくすぐられるものがあったなと。新型ニンジャとF/A-18E/Fのセットで描かれる初代トップガンの象徴のような並走シーン、Su-57とF-14(やたら多いスイッチにアナログ計器!)、ひたすら渋く美しく映された911とP-51……。

 見終わってから全体の構成みたいなものを考えると最初のダークスターパートちょっと浮いてないかみたいな感がなくもないんだけど(マーヴェリックが今もこういう奴ですという紹介としては最高だけれども)、単体ですごくクールな映像だったし尾翼のスカンクワークスロゴと操縦桿のわざとらしいまでの「ロッキード・マーティン」ロゴはダークスターの実在感をすごく高めていてマニアへの目配せとして最高だったので、目配せされる側としてはマジで最高のパートだったな……としか言えないところがある。

 ダークスター関連はすごく「ライトスタッフ」のX-1関連エピソードみたいなんだけど、「マクロスプラス」のファンとしてはプラスのタイトルを挙げないわけにはいかないよなみたいなところもあり。

 もちろんマクロスプラス自体がマクロス+トップガン+ライトスタッフ+(任意の洋画エッセンス)みたいな内容であってそりゃトップガン見たんだから当然想起するだろうという感じもあるんだけど、加えて「アフターバーナー」とか「エースコンバット」を思わせる後半の低空侵入パートもあったわけで(閉所侵入爆撃はスターウォーズだろと言われたらそれはまあそうなんだけれども「戦闘機モノ」というカテゴリの文脈として)。

 全体的に「トップガン」という偉大な作品にやられたクリエイター達が、それ以降に生み出した沢山の「トップガン的なもの」ひいては「戦闘機ドラマ」のエッセンスを、満を持して本家が完璧に取り込んでみせたようなところがあるよなと思ったし、そういう要素を変に気負ったような感じもなく堂々とカッコよく映像化して見せてくれたのはすごく良かった。「さらば全てのトップガン」的な……と言うと悪いオタクっぽい言い方になりますが。


 ときに面白い作品はキャラの「格」の表現が上手い、というのはまあ割と言い切ってしまって良い指標なのではないかと思うんですが、その意味では教官復帰後のマーヴェリックと生徒の格の違いを分からせるあたりのシーンの展開は本当に完璧で、半ばコメディに突っ込むような勢いで訓練生全員の鼻っ柱を折りまくっていくマーヴェリックの姿は爽快極まりなかったし、前作で(色々補足事項がつくとはいえ)トップガン教官相手に大立ち回りを決めていたマーヴェリックの規格外さを改めて認識できるいいシーンだったなと。

 そういう意味では前作ラストから2ヶ月で教官辞めてるのはちょっと笑ったけど納得せざるを得ないところもあり、存在自体が"Naval Aviator"そのものである男の誇りと孤独が出ていてすごく良かった。
 というか前作クライマックスでグースの件とか色々踏まえて反省して一段成長して模範的パイロットになったのだみたいな雰囲気あったと思うんだけど、単にあれはあの場での闘志を取り戻しただけで問題人物としての性根はそのままだったのだなあ。


 全体的に話の構成とか台詞についてすごく丁寧に前作を継承した作りになっている作品だというのはそれこそOPからして明示されているんだけど、ビーチバレーパートまで律儀に継承されているのは驚くと同時に笑ってしまった。ただ今回はちゃんと話を進めていてすごくいいシーンになっていて二重にびっくり。

 全体的に前作は終始目的意識がフワッとしたまま進行しているようなところのある映画だったんだけど、今作はストーリー全体の最終目標となる爆撃作戦が早いうちに提示されて、その上でマーヴェリック個人の解決すべき問題としてルースターとの関係が脇を固めているから、どのシーンでもそのあたりが軸になって綺麗な構成になっているんだなあ……という真面目な感想もあるんだけど、若い俳優の中に混じって前作と変わらないムキムキの上半身を見せつけていたトム・クルーズの肉体どうなってんだという印象がひたすらに強い。


 作戦説明。「ならず者国家」くん、トムキャット持ってて核開発してんだったらもう完全にイランじゃねーか!!!! 最新のロシアンファイターを持っているあたりはインドとかのイメージも入っているのかもだけど、その辺は考えるだけ野暮という感じではあるのかなと。
 今時こんなファジーで都合のいい「敵国家」の設定とか許されるもんなんだなあと思うけど、結果的に余計な所に気が逸らされず「そういうもの」として受け入れて見られる作りになっていてよかったと思う。バルベルデ共和国的なと言うか……
 しかしあんな僻地に施設作っちゃって核物質運び込んだり電力供給したりするの大変そうだなあ。電線とか見当たらなかったし施設自体も地下みたいだし、地下トンネルでどっか都市と接続して色々供給してたんでしょうかね。

 Su-57とF-14はともかくハインドまで、ブリーフィングで説明のあった敵機は丁寧に全部出番があったのがすごく律儀で面白かった。F-14の名前が出てきた時点で被撃墜からの奪取までは察しがついてしまったけど、想像よりもずっとドラマチックでアイコニックでリスペクトに溢れた扱いを受けていて本当に良かった。本当に心の底から格好良い戦闘機なんだよな……

 そういえば出撃直前のシーンの台詞で(恐らく18Fが複座なことを指して)「フォックストロットのパイロットは……」みたいなところがあったと思う(聞き違えの可能性はあるかも)んですが、字幕がしっかり「複座の……」となっていたの良かったですね。
 字幕戸田奈津子というので正直身構えていた部分があったんですが、全体的に自分の英語リスニング力の範囲ではそこまで変なところはなかったような気がするので、アドバイザーの人がすごく頑張って仕事をしたか、はたまたなっちが急に覚醒したかあるいは名義貸しみたいな感じだったのかもだぜ。


 爆撃シーン。ドラマの演出のためとはいえターゲティングポッド故障しすぎ! 一回スナイパーポッドと書きかけて、でもちょっとデザイン違ったようなと思ったらスナイパー(AN/AAQ-33)はロッキード製かつ米空軍向けで、F/A-18E/Fが積んでる海軍のターゲティングポッド(AN/ASQ-228)はレイセオン製なんですね。ロッキード製じゃないから故障させてもイメージダウンとかで怒られないやろという政治的判断が働いていた可能性ある(ない)

 照準役の18Fも爆装して飛行していたけど、爆撃失敗時には爆撃リトライするプランだったのかなあとか思っていた。とはい一発成功前提の作戦だし帰路のために空対空ミサイル積むとかなんかあったのでは……とか偉そうなことを言ってみたい気もしたけど、まあ結果なんとかなってたしOKなんでしょう。機体重量揃えて編隊飛行のペースを揃えやすくするとかそういうのもあるのかなあ。


 爆撃成功後死ぬほどSAMに撃たれる場面はすごくハラハラさせられて良かった。冷静に考えるとまあ無茶も無茶な話で著しくアンリアルな感じの絵面なんだけど、あまりにも堂々とやってくれるのでこちらも大真面目に見られるところがあった。全体としてそういう映画だったような気がする。

 訓練中にやるなと怒られていたコブラ機動を実行してルースターを守ろうとするマーヴェリックは熱かったし、それに対してマーヴェリックの教えを守って命令違反して救いに来てしまうルースターも最高だった。二人の和解の描き方としてこれ以上無いだろうという感じだし、そこからノンストップでトップガンの象徴というべきF-14の前席後席関係になるというのはあまりにも構成が上手すぎる。


 そしてF-14対Su-57の空戦シーンはいま世の中にある空戦をテーマにした映像の中でも最高峰のひとつになったと言ってしまって良いでしょう。現代最新の映像技術の元で描かれるギミック満載の空戦、繰り返し語られてきた「最後はパイロットの腕」(少なくとも今日は!)という原則をこれ以上なく強調する素晴らしい映像。

 内蔵ウェポンベイから放たれるSu-57のミサイルに対して貧弱なサイドワインダー、5世代機の圧倒的なエンジンパワーと電子制御から繰り出される失速機動に対して、手動のエンジンパワー制御と可変翼制御が生み出す曲芸飛行、デジタルなHUDでF-14をロックオンするSu-57に対してアナログ表示でカウントダウンされるF-14のGUNの残弾(ちょっと「Paths of Hate」を想起させるものがある)……これでもかと対比を繰り返し、最後には決定的な「腕」の違いを見せつける見事な演出。


 そしてエンディング前のハングマンのめちゃくちゃ美味しい役回りとその後のルースターとの友情シーン。これはマーヴェリックとルースターの話であったと同時に、ルースターを中心とする現代のトップガン生たちの物語であって、前作でのマーヴェリックやアイスマン達の役回りを絶妙にシャッフルした上でもう一度語っていた作品だったんだなあ……と改めて気付かされてすごく感動。そこから少し波が引いたようにしっとりと締めるエンディングまで含めて最高で、「めちゃくちゃいい映画見たな……」という心地よい感動と疲労感を最後までこれでもかと味わわせてくれる映画だった。



 数年前にタイトルを聞いたときには正直なところ「今更トップガン?」みたいな感覚もあったんだけど、実際に出来上がったものを見てみるとむしろまさに「今」だからこそやれた作品だったというか、前作からすごく長い時間が経った上での続編だからこそ出来た作品だなあと。
 単純に映像技術のアップデートみたいな面でもそうだし、ストーリーの上でも登場人物の老いや現実の社会・技術の進歩と変化を取り込む事で、世代間の対話と信頼、そして継承……みたいなところを大きな軸に組み込むことができていた。結果的に「今しかない」「これ以上はない」と思えるような素晴らしい続編になっていたと思う。


 前作も今見てもなんだかんだ面白いとはいえ、正直色々雑というか良くも悪くも時代を感じる要素がたくさん詰まった、いわば時代遅れな前世代の映画であるわけで、その前作と同じパーツをこれでもかと組み込みながら、十分以上に現代的で素晴らしい映画に仕上げることが出来るんだなあ……というのはまさに作品内でやっていた事とオーバーラップするような部分でもあり、本当に感動させられた。

 トップガンという作品についてはトム・クルーズ自身が続編の権利を買い取ってずっと温存していたらしいけど、その上で今これを作ったというのは「今こそ、このメンバーで」みたいな気持ちがあったんだろうし、その感覚が完璧に当たっていたことは完成した映画自身がこれ以上なく証明している。

 マーヴェリックの感想や紹介みたいな話ではトム・クルーズのキャリアと絡めて語るような切り口が多いなあと思っていたんですが、それは単に映画ファンのマニアックな視点とかいうものでなく、この作品の制作経緯や内容からして必然的にそうならざるを得ないものだったんだなと。
 正直トム・クルーズという人物に関して色々色眼鏡で見ていたような部分があって、なんか映画の宣伝とかでもまたトムがノースタントですげえ怪我しましたみたいな話ばっかり強調されてんなみたいな印象があったり、また映画以外のところでちょっとアレな話があったりはするんだけれども、こと映画に関しての能力とスピリッツに関してはやはりレジェンドと呼ぶに相応しい偉大な人物なんだなあと再認識させられましたね。こうしておれ自身もトムの話をしてしまうという……


 なにはともあれ「戦闘機モノ」の屋台骨になっていた偉大なレジェンドがまた一つのマイルストーンになるような傑作として再び君臨してくれたということで、同ジャンルに属する作品を選好してきた身としてはジャンル的な意味でもすごく嬉しい作品でした。
 願わくば初代「トップガン」に多くの作品が強く影響を受けて一つの流れを作ったのと同じように、今後のジャンルが今作を契機に更に一段ぶち上がるような流れになってくれたら良いなあ……ということで綺麗にまとめた感じで終わりとしたいと思います。

 一応心残りとしては、席取りの問題でIMAX上映館に行けるところ通常上映回で済ませてしまったので、これは近いうちにタイミングを見てIMAX上映を見に行きたいと思います。それをしたいと思わせてくれるだけの作品だったので……