2021年12月7日火曜日

庵野秀明展行った(21/12/07)

今日あったこと

  • ここ最近はセールで買った「MGSⅤ:TPP」をひたすら遊んでいる。発売当時は色々物議を醸していたものの、ミッション14とかまでの範囲では好印象。
  • シリーズの美点はそのままにオープンワールドを生かして多様な攻略スタイルを楽しめるようになったステルスアクション、兵士集めと基地拡大の中毒性、発売年代と動作の軽量さから考えると異様に高品質なグラフィック。
  • ただおそらく発売当時の評価のゴタゴタの原因は後半に集中していると思われるので、序盤が面白い分だけ先への不安は強まっている。色々見聞きして覚悟決めてから遊んでいる時点で、当時「待ち望んだ新作にして事実上の最終作」として遊んだ人々ほどのショックは受けないだろうけれども……
  • 「デススト」も買っているので、今年の冬はこのままコジマ尽くしでやっていく予定。

本文

 また日記でもなんでもない話ながら、先日庵野秀明展を見に行ってきたのでざっくり感想を。
 まず全体として、「エヴァ展」でも「シンゴジラ展」でもなく「庵野秀明展」としての展示が十分すぎるほどに成立するのがこの人の凄いところだなあと。


 もともと自分の庵野監督へのイメージとしては、監督・アニメーターとして、クリエイターとしての能力と実績が凄まじいのと同時に、あるいはそれ以上に、本人の魅力/魔性とカリスマ性がとんでもない人なんだろうなというのがあった。

 庵野監督の有名なエピソードとして、製作中にロッカー蹴ったり本棚に頭打ちつけたりという奇行に走ってスタッフを無理やり説得してデスマーチに引きずり込んだというような話がある。
 こういうエピソードがあるにも関わらず、エヴァの制作には毎回凄まじいスタッフが参加して素晴らしい仕事をしているわけで、どこまで自覚的なのかはともかく、あらゆる手段で周囲の人間を惹きつけてコントロールできてしまう人種なんだろうなと思っていた。
 で、実際に今回の展示を見た結果として、この印象がある意味裏付けられたような部分があったし、実際に惹き込まれてしまう理由の一端も分かったような気がした。


 展示の構成としては、ざっくりと「庵野秀明が影響を受けたもの」「庵野秀明がこれまで作ったもの」「庵野秀明がこれからやろうとしているもの」の三部構成。
 後ろの2つに関してはともかく、「影響を受けたもの」に関しては完全に昭和特撮・アニメの博物館じみた構成で、すごく異様な内容。



 展示室の空間にはこれでもかと当時の特撮作品の登場メカの大型模型やポスター、実際の撮影用プロップなどが展示され、部屋の壁面では当時のウルトラマンと仮面ライダーの名シーン集と、アニメ・特撮・映画など各種の映像作品のOP集がひたすらループ再生されている。
 流れている内容そのものは(特撮門外漢の自分から見ても)おおっと思わされるもので、なるほど庵野少年が、あるいは当時の子供達が熱中するわけだ……と思える内容。なんと言っても空間そのものが醸し出す「当時のテレビ少年、あるいはいわゆるオタクが見た夢」的な熱気感が凄まじく、初っ端からクラクラさせられる展示だった。

 この独特の空間で展示物を見つめていた人々は、自分よりも下に見えるような人から、庵野監督と同世代か上かと思われるような人まで幅広く、それ自体が空間の異質さをさらに強調していた。庵野監督は自分が受け取ったものを広いところに届けたのだなあと思う。


 「作ったもの」の展示からは一般にもよく知られる庵野監督の足跡を丁寧にたどっていく過程となり、とりわけ芸大時代の作品に関しては「アオイホノオで見たやつのオリジナルだ!」という興奮が得られた。当時の作品が高画質でオフィシャルに見られるというのはそれだけで凄くレアな体験。
 その中でも「じょうぶなタイヤ」はやはり凄まじい出来で、こんなん同時代の同期に見せられた瞬間のホノオくんの衝撃たるや……と謎の同情気分に。庵野やめろー!


 他の制作物に関してもすごい量と密度で丹念に各作品の制作過程を見せてくれていて、一つ一つの完成度に圧倒されるばかり。特に有名な「王立宇宙軍」のロケット打ち上げシーン、破片一つ一つに番号振って動きを管理したカットは現物で見ると改めて驚異的な仕事であることを実感できた。あれを一人の人間の頭で処理できるとは。

 そうした制作物のすさまじい完成度と同等に興味を惹かれたのは、製作中の合間に書かれたメモ書きや落書きの類。
 特に「ナウシカ」への参加中に書かれたらしいものはすごく砕けた内容で、自分を冗談半分に「期待の原画マン」「次代のホープ」などと書いていたり、同じ紙の中に制作らしい人が「落書きしてる暇があったら1カットでも上げてくれ」などと書いていたりなど、すごく興味深い内容。いわゆる「愛されキャラ」的に受け入れられていたのかなあと。
 新人当時にこれだけ砕けたノリで受け入れられていて、その上で作ったのがあのシーンなんだからすごい事だと思う。


 その一方、監督として「トップ」の制作した頃の資料には制作スタッフへの熱い檄文みたいなものもあり、このあたりをひっくるめて先に書いた「本人の魅力・カリスマ性」の一端を見せつけられたような気持ちになった。
 自分の立場や立ち位置を考えて振る舞いやキャラクターを適切に調整しつつ、最終的な完成品のクオリティで周囲の人間を動かせてしまう人なんだろうなあ。
 シンエヴァ公開後にNHKでやっていた密着ドキュメンタリーでは安野モヨコさんに「自分をかわいいと思っている」とか言われていたけど、まさにこういうところを指しての言葉だったんだろうと思う。


 その他目立つ展示物としては「第三村」のプロップは圧倒的な物量で素直にすごかった。あのドキュメンタリーで延々と弄くり回していた現物がそのまま見られるというだけである種の聖地巡礼的な感動があった。
 「シンエヴァ」関連では他にも後半のゲンドウの長台詞シーンのコンテなどもあり、NHKドキュメンタリー同様シンエヴァの副読本として面白い展示になっていたと思う。単純なオリジナルかと言えば、割とコンテと完成品が違うなという(ドキュメンタリーの時同様の)発見もあって、そういう意味でも面白かった。



 最後の「これから」に関しては展示量的にも(当然ながら)控えめながら、一定以上に期待をもたせてくれるもの。アニメ・特撮業界向けの支援の話はもうちょっとボリューム取って押し出してくれても……とは思いつつ、とりあえず微力ながら何かになればとATACの缶バッジを買うなどした。


 概してすごく良い展示で、これだけ当時物の資料が綺麗に残っていた事自体がまず凄い。本人が近年掲げているアニメ・特撮文化の保存という意味でも、その意味と価値を効果的に見せてくれる展示だったと思う。
 そして何より、庵野秀明のこれまでの足跡を踏まえた上で、この先どんなものを作ってくれるのか、特に「まだ誰も見たことがないもの」をまた作ってくれるのか、への期待を高めてくれる展示だった。これはちょっと気の早い話ながら、年齢的にもライダーとウルトラマン作って終わりというわけでもないはずだし、「エヴァの呪縛」も多分きっとおそらく今度こそは解けたわけだし……じっくり楽しみに待っていたい。

 他方、個人的な鑑賞体験としては平日を選んだにも関わらずのなかなかの混雑で、一部展示エリアを落ち着いて見られなかったり、せっかくの撮影許可エリアで撮影した写真がカメラの設定ミスでかなりダメだったりと、悔いが残る部分も多くなってしまった。庵野監督の今後への期待も込めて、いつか「帰ってきた庵野秀明展」がさらなる大ボリュームで催されることを祈念したいと思う。